見たくないものもあるけれど


矢車草 3



彼の娘は10回目の誕生日を迎えようとしていた。
秋の空は突き抜けるようで、少し寂しく、切ない。

「時々思うんだ」

寝転がって、フェリックスは草をいじっている。
久々に家族で遠出して、丘の上にてピクニック。

忘れ谷よりも静かだと思えるこの場所。
娘曰く、「いつもと変わらないよ」。

その娘はというと、花を摘んで遊んでいる。
谷では見かけないような草花が多かったらしい。

「何を思うの?」

ムームーはレジャーシートの上に座っている。
本当は草の上に寝転びたいのかもしれないが、生憎着替えを持ってきていない。
昨日は、大雨だった。

雨の恵みですくすくと育っている雑草たち。
十分な水分を含んでいることは、見ただけでも分かる。
触れば尚更、潤いを感じられる。

「こんなに幸せで良いのかなーって」

谷とは違い、丘の上から海は見えない。
もう少し上に登れば見られるだろうか。

フェリックスは立ちあがった。

「サラ、おいで」

呼びつつ、丘――というか山?――を登る。
妻は黙って着いて来る。
娘はいっぱいに抱いた草花を落とさないよう、注意しながら小走りにやって来る。

「ほら、サラ。海だよ」

その海は谷から見えるものと同じだが、やはり高い場所から見ると雰囲気が違う。
点々と、島が見えるのは一緒だが、全体的な雰囲気がよく見える。

「あの島では、揉め事が起こっているかもしれない」

右の島を指差して。

「あっちでは、お父さんが作った野菜を食べているかもしれないね」

左の島を指差して。

「今、何不自由なく暮らしているお父さんたちとは、正反対の生活をしている人だっているんだよ」

娘は不思議そうな目で父を見上げる。
優しく微笑んで、頭を撫でた。

「そんな人達のために出来る事が、お父さんにはないんだよ。牧場で採れた野菜や牛乳なんかは、お金のある人の所に行くからね」

無料でそういう人達に配ることは、出来ないでもない。
だが、妻や娘を食べさせある程度 の生活を行うには、やはりお金がいる。

自分でいうのもアレだが、語学力はある方だ。
職業として外国へ飛んでいったりも出来るけれど。
でもそれは、牧場を捨てるという事だ。

そっと、フェリックスの肩に暖かいものが触れた。
妻が軽く叩いたのだ。
――バトンタッチ。

「でも、お父さんの野菜や牛乳は……例え恵まれない人達ではなかったとしても、どこかの誰かの命を助けているのよ」

頭を撫でる役目も交代して。

「それはね、サラ。とても素敵なことだと思わない?」

にこりと笑うその顔は、夫にも妻にもそっくり。
さすがは減数分裂。

「うん!」



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この話が一番ムームーらしい気がします。
ポジティブシンギングな彼女が好きです。
……私が結婚したのはルミナさんですが。



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