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矢車草 2 「……ごめん」 それは7年前のこと。 新しい牧場主となったフェリックスは、毎日せっせと働いていた。 人当たりの良い性格で、人間関係は問題なし。 学生時代に部活でかなりしごかれていたらしく、体力も申し分ない。 生き物への愛情は人一倍で、技術面での失敗はタカクラのフォローでどうにかなる程度だった。 さて、ほぼパーフェクトなフェリックス君。 言うまでもなくモテるのだが、恋愛に対しても直向きで、一途だった。 そんなわけで、 「ごめん、ムームー」 女の子を振るなんて、よくある出来事。 「…他に、好きな人がいるの?」 そう聞かれても、ニコリと笑うだけ。 のらりくらりと交わしてしまう。 でも、その笑顔はとてもとても痛々しかったんだって。 それでも彼は、ブルーバーにやって来ては酒を飲む。 ガーファンと馬が合うらしい。 「ガーファーンさーん。おーかーわーりーーー」 飲み過ぎて酔っ払ってしまった様 子。 自分の酒量ぐらいわきまえなさい。 やれやれ、といった風に、ガーファンはムームーを呼び、 「うちまで連れて帰ってやってくれないか?」 ムームーの恋心は、とうの昔に気付かれていた。 ――それだけ、ガーファンが相手をよく見ていたということだ。 ただ、振られたことには気がつかなかったらしい。合掌。 ムームーは恋愛経験豊富な女性だ。 振られたからといって怨んだり避けたりなんてことはしない。 フェリックスも相手に合わせて今まで通りに接するかどうか見極める、という点では優れている。 二人とも、昨日の今日だというのに“友達”として対応するなんて雑作もない。 「ほら、フェリックス。着いたわよ!起きて!!」 うーんむにゃむにゃ……。 おぼつかない足取りで扉に近寄り、 ガツン! 柱に突撃。 少しは酔いが冷めたのか、痛そうにうずくまってなにか言っている。 「…むー、むー……」 むっくりと立ちあがった。 泉の方にいる白いやつに、少し似ているかもしれない。 「なあに?」 まるで子供みたい。 普段しっかりしている分、その姿はとても新鮮で。 「ちょっと、ごめん」 ぽぷっ、と。 その瞬間、見事にムームーの頬は染まったそうな。 真っ赤な真っ赤な、りんごのように。 「――俺さ、付き合ってる子がいたんだ」 ムームーはなにも言わない。 動揺で声が出なくなったわけではなく、続きを聞きたくないわけでもない。 「今日ね、その子の命日」 目の前には、悲しそうに笑う人。 その子は今でもフェリックスを縛り付けている。 なんて、羨ましいのだろう。 「『子供の愛し方が分らない時は』」 街にいた時、コマーシャルで見た。 「『抱き締めてあげてください』…だって」 言葉を越えた愛情表現…らしい。 大方当たっている気がする。 私、たまらなくこの人が愛しいわ。 子供みたいに泣いてるの。 気の済むまで泣いて、 フェリックスは顔を上げた。 少しすっきりしたようで、その顔は晴々としている。 若干の照れもでてきたようだ。 「フェリックス。自分の名前の意味、知ってる?」 フェリックス。 間違ってもフェニックス(不死鳥)ではない。 「……幸福」 にっこりと微笑みながら、ムームーは語りかける。 元気を出して、ね? 「私、フェリックスのこと好きよ。誰よりも幸せになって欲しい」 私が幸せにしてあげたい、とは言わない。 幸せとは、自分の手で掴み取るものだと思うから。 「その子のこと、忘れられないかもしれないけど……。でもね、その子だってあなたの幸せを願ってると思うわ」 もちろん、自分と恋愛をすることが”幸せ”だとは言わないけれど。 「だって、フェリックス。あなたは、誰よりも幸せになることを望まれて生まれてきたんですもの」 ■■■ 「……そしてパパとママは1年後に結婚したのでした。めでたしめでたし」 「すごー、ドラマみたい。 上手く行きすぎ」 「いや、あの二人ならありえるな」 「ってか、お前らなーにーをー話してるんだー?」 ケイト、ヒュー、そして現在5歳の娘、サラ。 忘れ谷唯一の子供3人組が井戸端会議を行っていた。 互いに視線を交差して、諦めたのか最年長ヒューが口を開く。 「両親の馴れ初め暴露大会」
ワンライシリーズで一番書きたかったのはこの話なんですが、 |
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