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矢車草 1 正直、田舎――とりわけ酪農家――に憧れる気持ちは前々からあった。 都会暮らしに疲れていたわけではない。 仕事が上手く行っていなかったわけでもない。 早起きは苦手だし、夜遊びは大好きだ。 でも、しかし、それでも。 自分が生きるために必要な物――水、食べ物、空気。 お金によってそれを得るのが普通だが、それ自体を育ててみるのも悪くはない。 何千年も昔の人が、そうしていたように。 そんな時代は、まだ平和だったらしいから。 朝、太陽が昇る。 それと同時に一日が始まる。 もう少し眠りたい日もある。農業が煩わしくなる日もある。 しかし、相手は生き物だ。接客業などとのはわけが違う。 人でない、生き物なのだ。 本来ならば自然に在り、誰の手も借りず生きていく。 それを、人間自身が生きていくためにより効率的に育てているだけのこと。 『芽ーがー出ーてー 膨らんでー はーなが咲いてー 実になってー』 子供の時の遊び歌。 植物はまさにそんな感じだ。 実に分かりやすい歌だと思う。 そして、動物もそんな感じだ。 生まれ、育ち、恋して、出産。 実を食べてしまってごめんね。 君達が生きたいように、俺達も生きたいんだよ。 昼、太陽は真上。 光合成が活発に行われ、(ウシのゲップにも含まれる)CO2は減っていっていることだろう。 水遣りはとうに終わり、谷の人々とのささやかな交流の時間。 牧場で作りすぎたものをおすそ分けしたり、ゲームに興じてみたり。 学者気取りで発掘の手伝いをしてみることもある。 世間体だとか、うわべの付き合いだとか、そんなものはここには存在しない。 なんて綺麗な土地なんだろう。 現代社会においてこのような地域が現存しているなんて、地球もまだまだ捨てたもんじゃない。 牧場でウシが鳴いているのが聞こえたら。 さあ、そろそろ帰ろうか。 夜、太陽は沈んだ。 静寂の中でも音は絶えない。 風に揺れる牧草。さわさわさわ。 ニワトリの寝息。すうすうすう。 川のせせらぎ。さらさらさら。 生きているって感じられる。 そんな時。 だけどたまには人恋しくて、お酒を飲みに行くことも。 そしてまた、朝。 嗚呼。 ここは、なんて平和なのだろう。 「フェリックス。あの……ね」 照れながら笑う妻の目は、穏やかそのもの。 「赤ちゃん、できたの」 また一つ、実がなった。
某有名攻略サイトさんの掲示板にて連載していたものです。 |
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