のんびりゆったり暮らしたい
互いに共に夢を叶えて


それは小さな恋の唄  第九話



「村長……これ、本当ですか」

断崖絶壁という言葉が相応しい。

「ああ、頑張ってくれたまえ」

にこにこと、常の笑顔で笑うテオドール。
生まれて初めて、人を殴りたいと思った瞬間だった。



■■■



火曜日は『カフェ・キャラウェイ』の定休日。
エレンは毎週この日にお邪魔させてもらっている。

『CLOSE』と書かれた板がドアにかかっているが、いつものことだ。

「こんにちは」

ドアに吊るされた小さな鐘。
カランコロンという音が店内に鳴り響く。

いつになく薄暗く、静か。
なにかあったのだろうか、ケティはシンのところだし……。
不安が胸をよぎった。

「…カール?いないの?」

遠慮がちに声を出す。
応答は、ない。

「は、入るわよ〜」

半開きになっていたドアを閉め、抜き足差し足忍び足。
そろそろと奥のキッチンの方に歩いていく。

「……あら」

脚立の低い部分に腰掛け、キッチンに倒れこむようにして寝ている人が一人。
こんなところで寝るとは、余程疲れているのだろう。

ベッドまで運ぼうかとも思ったが、いくら童顔とはいえ一応成人男性であるし、さすがに無理そうだ。
気を失っている人間は普段の何倍も重いわけだし。

寝顔はいっそう幼くて、とても可愛い。
声は出さずに微笑みながら、掛け布団を取りに行く。

起こさないように。
そっと掛けたつもりだったのだけれど、

「…ん……わあ!エレン、どうしたの!」

努力は報われず、カールは目覚めてしまった。
混乱しているのか、きょろきょろと辺りを見渡して。
時計を確認したところで現状が飲み込めた様子。

「ごめんね。おいら、寝ちゃったみたいだね」

今日はエレンが来る日なのに、駄目だなあ。

頭を掻きながら俯いて。
それは彼の照れ隠し。

「良いの良いの。ベッドで寝て?私今日は帰るから…」

掛け布団をベッドに戻しに行こうとすると、後ろから制止の声がかかった。

「えっ…と、あのさ。話があるんだ。聞いてくれないかな?」

話ぐらい、そんなに改まらなくてもいつでも聞くのに。

今日のカールは少し変。
電気を点けて見てみれば、ご自慢のタキシードもよれよれだった。

「良いわよ。じゃあお茶淹れるから――」

「ああ、そんなの良いから。…ちょっと、座ってもらえる?」

いやに真面目な顔で促してくる。

細かい刺繍が施されたテーブルクロスは、エレンの手作り。
それがかかっている机に、向かい合って腰掛けた。
なんだか少し、照れくさい。

「おいらは、その、職業もこんなだし、色々と、その、アレだけど、なんていうか、つまり」

上手い言葉が見つからないのだろうか。
半ばヤケになったように、カールはポケットを探り始めた。

大きく息を吸って。
意を決して取り出したのは、

「結婚…して、ください!」

透き通るように綺麗で、触れれば壊れてしまいそうなほど繊細な。

小さな小さな、青い羽。

山に舞い降りるという――伝説の中の存在だと思っていた。

「……ね、カール。私の夢、知ってる?」

青い羽で結ばれた二人は、永久に。

「私ね、ずっと夢見てたわ。暖かい家庭を持って、皆で仲良く暮らすの」

永久に、結ばれる。

カールは柔らかい笑みを漏らした。
君の夢は、自身の夢。

「おいらと、一緒に叶えよう?エレンと一緒に生きていきたい」

憧れていた幻は、現となった。

大好きな人と夢を叶えていく。
そんな奇跡が、とても嬉しい。



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青い羽伝説は適当ですよ〜(汗



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