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二度とその手を離さない それは小さな恋の唄 第八話 ぼんぼりに明かりを点けましたら、ドカンと一発でハゲ頭になった人がいたとかいないとか。 「…またやったのか」 辺りを見渡し、ブルーは溜息をついた。 どうしてこの娘は日々爆発を起こしまくるのだろうか。 少しの進歩ぐらいあっても良いではないか。 「あはは……。今日は上手くいきそうだったんだけど、なかなか出来ないねえ」 腰をかがめ、飛び散ったガラスを拾うのを手伝う。 慣れているのか、二人の手際は非常に良い。 一人が大きなガラスを手で拾い始めたら、すぐさまもう一人はホウキで小さな破片を集め始める。 ……こんなことが慣れっこになってしまうというのはいかがなものか。 「お前、どうしてこんなに実験が好きなんだ?普通女は、花とか、動物とか、宝石とか、そういう物が好きなんじゃないのか」 花の芽村の、アン以外の女は皆そうだ。 もちろんブルーは、色気の欠片もないような実験という行為がいけないと言っているのではない。 「失礼ね。私、アメジストのブローチとかも好きよー?キラキラしてて綺麗じゃない。そういえば、このガラスの破片もキラキラしてるね」 アンは、実は頭が良い。 実験等のためにそうとう勉強したはずだ、しかも理系。 理系人間は、論理的な思考を得意とする。 言葉巧みに誘導し、話を核心から遠ざける。 ブルーは、騙されない。 「だが、頻度は少ないだろ。なんでお前がそういう風に育ったのかが気になるんだが」 キラキラ云々で会話が違う方向に行ってしまいそうになったのを、引き戻す。 床に落ちていた破片はほぼ収集完了した。 「どうしても、気になる?」 えらく真面目な顔で問い返してくる。 珍しいものを見た、とか妙なところで感心している場合ではない。 「ああ」 他人にはあまり干渉しない性質だ。 だが、気になるものは気になる。 アンはプッと吹き出して、普段通りの明るい表情。 「ブルーったら、それじゃ私のこと好きって言ってるみたいよ?はは、有り得ないよねえ。誤解されるから他の子には言わないほうが良いよ」 目の前でくすくすと笑っているアンに、妙に苛立った。 「俺はお前が好きだが、何か問題でもあるのか」 ドカッと音をたてつつ、ちりとりが落下した。 …せっかく拾い集めたガラスが散らばってしまった、また集めなければいけない。 頭の中、微かに残る冷静な部分はわりとどうでも良いことを考えている。 大部分は目の前の少女についてだ。 自分の気持ちを理解しようとしていない、女の子。 まだまだ、その人は”ガール”であり”ウーマン”ではない。 告げるのは、早かったか。 硬直したまま動かないアンを見かねて、大きい方のガラス片を入れた袋を担ぐ。 「これ、捨てとくぞ。いつか気が向いたら話してくれよ」 そのまま帰ろうとすると、アンははっと目覚め、 「明日!」 我に帰って、叫んだ。 「明日話す!今日は……ちょっと、ゴメン」 心の整理がむにゃむにゃ――。 続きはよく聞こえなかった。 ■■■ 若干緊張した面持ちで、がらくた屋のドアをノックする。 待ち構えていたのだろうか、10秒も立たないうちにアンが出てきた。 「いらっしゃい!こっちへどうぞ〜」 普段と何一つ変わらない様子でトントンと歩いていく。 その歩きはリズミカルで、みなぎる若さが感じられる。 新しく増築した二階部分。 お客用の大きく柔らかい椅子に腰掛けさせられ、ブルーは少し落ち着かない。 アンはというと、質素な木の椅子に、背もたれを抱きしめるようにして座る。 長年愛用していると思われるその椅子は、至るところに傷跡が。 それはアンの、成長の印だ。 「この椅子ねー、お母さんがお嫁にくる時に買ったんだって」 訂正、マイケル一家の歴史だ。 「私の母さんね、実験とか全然しなかったの。典型的な専業主婦。いっぱい私に愛情注いでくれたんだ」 懐かしそうに。 遠い目をしながら語るその姿はどこかに行ってしまいそうで少し悲しいが、アンの心は今を生き、過去の柵には囚われていない。 いないことが辛いのではない。 もう会えないことが淋しいのだ。 「でも、小さい時に死んじゃった。だから、実質的には父さんが私を育ててくれたの。小さい時から料理とかより実験ばっかり見てたら、こんな風に育っちゃったのよ」 己を指差しつつ笑う。 自虐的な言葉とは裏腹に、それは決して苦笑いなどではなく、誇りに満ちた笑み。 自身の生き様を、理想を、目標を。 胸を張り誇れる人の、なんと素晴らしいことか。 「いつか立派な発明家になって見せるから――」 軽快に立ち上がり、ブルーの目の前までやってくる。 すっと差し出したのは実験で傷だらけの右手。 彼女は少し照れくさそうに、大きく息を吸って。 「ずっと、見守っててくれませんか?」 少女が女性となるのは、些細なきっかけがあれば十分なもので。 自分自身が肯定された時、人は生きる“かて”を見出す。 たったの一日で、逞しく――そして美しく成長したアンの手を拒む理由など、ブルーは持ち合わせていなかった。 ブルーと結婚しようと…思ってたのですが。
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