語りたくても口下手で
本音はいつも闇の中


それは小さな恋の唄  第四話



カランコロンと鐘が鳴り響く。
お客さんだ。

「あら、いらっしゃい」

妖艶な瞳で迎え入れたのは、ガン黒のギャンブラー。
カウンターの隅の方が彼の指定席。

「いつもの頼む」
「はい、どうぞ」

数秒の間もなく“いつもの”酒が出される。
ダンが来る日、時刻は決まっていた。
それに合わせて準備しておけば良い。

ダンは多少の驚きと共にその酒を口に運ぶ。

「やっぱイヴちゃんは美人だね」

彼が働く果樹園。
その主の迷台詞を、少し変化させ拝借する。
言葉としては噛み合わないが、意図するところはそれで十分だ。

美人で気が利いて、もう言うことなしだよ!

「おだてても何も出ないわよ?」
「ちぇ、本当なのになー」

一杯目はもう飲み終わってしまった。
大酒飲みのダンには、グラスが少し小さかったようだ。

まだまだ余裕なようで、酔った仕草など微塵も見せない。
おかわり、と空のブラスを差し出しつつ、

「イヴ最高!ビバ、イヴさん!お嫁さんにしたい人ランキングナンバーワン!」

どこぞのチンピラが使いそうな褒め台詞を、恥じらいもなく口にする。
酔ってなくてこれが言えるのは、ある意味賞賛ものだ。

「口だけは達者ね」
「ギャンブルも得意だよ」

あまりにも信憑性が薄い言葉に、少しの悪戯心が生まれた。

「あら、私の方が上手だと思うけれど」
「へえ〜?理由は?」

「だって」

二人の間にはカウンターがある。
だがそれは、いざとなればそんなに広いものではなく、

「あなた、駆け引きとか苦手そうだもの」

ボンっ。

ダンの頬に手を添えて。
顔を近づけて話せば、甘い甘いローズの香り。

お酒はまだ一杯目。

「色目に負けてるようじゃ勝てないわよ」

ダンの顔は真っ赤に染まってしまっている。
まだまだ、可愛いひよっこね。

「…仕方ないじゃん。イヴは美人さんなんだから。それに俺、イヴ好きだし」

あっけらかんと告げられた言葉。

――完全に虚を突かれた。

だが、ここで引いては『美人のイヴちゃん』の名が廃る。
心を一瞬で建て直し、

「それはそれは、ありがとうございます。ご褒美をあげましょうか」

手を添えているのとは反対側に。
ローズの香りはさらに強く、ダンの嗅覚を刺激した。

かすめた感触は、全身に甘い痺れをもたらす。

「ふふっ。じゃあ、またね」

名残惜しそうに手を離し、奥の自室に退散する。

部屋のドアを閉めた瞬間。
こんな効果音が聞こえてきそうだった。

『ボンっ』



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やっぱり私のうりはギャグだと実感した話です。



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