ジョウロで水をやれば作物は輝いて
後ろで鳴く動物は急かすように


それは小さな恋の唄  第二話



「やあ! ニーナさん、野菜の状態はどうだい?」

さすらいのプラントハンターと呼ばれる彼は、名前までも植物好きでしかありえないような、そんな人。
毎日毎日村中をうろうろして「この村の植物は実に興味深いね!」とかなんとか、ありとあらゆる人に言いまわっている。

「今日も早いのね〜」

毎朝の出会いに、ニーナは笑顔で応える。
手元からあふれ出る水しぶきの、作り出す虹は鮮やかなことこの上ない。

植物への水やりは朝が基本。
昼は気温が高くなっていて、水があっという間に暖かくなってしまう。

そんなわけでニーナが早起きなのは分かる。
『だが、バジルは毎日欠かさず早く起きる必要などないだろうに』
……なんて考えが、ニーナの中にあるわけはない。

必死に光合成を行う植物ほど、美しいものはない。
もちろん、夜の静けさの中で時を待つ姿も神秘的だが。

「植物が最も美しいのは、やはり日が出ている時だからね。おちおち寝てはいられないよ」

ほら、バジルもやっぱりそう考える。
似た者同士、植物同志。

生物が生きるために必要なのは、水と、酸素と、栄養だ。
全てを外から受け取らないと生けない動物と比べ、日光さえあれば水以外の全てのものを生成できる植物の、なんと素晴らしいことか。
また、呼吸により二酸化炭素を出し、それと水と光を使って栄養と酸素を作り、そもそも水は酸素と水素から出来ていて……ああもう!

「この芸術的なまでの循環は……浪漫だね」

目を輝かしながら語るバジルに、ニーナは大きく首を振る。

本当に彼は植物が大好きなのだ。
でなければ、さすらってなんかいられない。
人当たりの良い性格だから、無償で色々もらったりして生き延びているけど、この人は人間であり、動物であり、植物ではない。
水と日光だけでは生きていけない。

だからこそ、惹かれるのだろうけど。

彼は植物に。
彼女は彼に。



■■■



「キュッ!キュッ!」

お店の近くに現れたのは、小さな子リス。
毎日かかさずやってくきては、愛らしい鳴き声を披露している。

今日は早いのね、ちょっと待っててね、なんて言いながら、ニーナは小走りに家の中へ帰っていく。
再び現れた時には、季節はずれの収穫物と新鮮な水が小さな手のひらに包まれていた。
平たい皿に入れて、可愛いお客さんの前に置いてやる。

バジルは微笑しながらも、疑問の声色を発した。

「水も……?」
「近くに川も海もあるけど、やっぱり食事の時にはあった方が良いかと思って」

リスが食べているところに、スズメもやって来た。

野生の動物が食事をする時、水分を取りつつ行うことはむしろ珍しいだろう。(水分を含む食物を食べる、という場合は除き)
それくらいニーナも知っているだろうが、それでもなお水を与え続ける、その優しさ。
――甘やかしたら野生では生き延びれない、という人もいるだろうが。

優しさと甘さは紙一重。
だが、ニーナのそれは甘さではないと、バジルは思う。
森まで餌を与えに行くわけでもなし。
日参する動物が増えるのも分かる。

ニコニコと見守っていた二人だけれど、あっとニーナは声を上げた。
手を打った反動で桃色の髪が揺れる。

ふふっと穏やかに笑んで、バジルにしばしの滞在を促した。
再度家に戻り、持って来たのはオレンジジュース。

「今年始めてうちで採れたので作ったの。飲んでみてくれる?」

バジルは植物には詳しいが……食物には詳しくない。
つまりは、ただの好意によるおすそ分け。

「とても美味しいね。ありがとう」



彼はバジル、さすらいのプラントハンター。
彼が輝くもう一つの時とは、素敵なエキスを受けた時。

植物に肥料をやると、より素晴らしく育つように。
彼も、また。



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バジルさんは良いキャラしてらっしゃいますよね。



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