昔と今と、先へと続くもの



「あ、リオンさん!」

雨上がりの午後。
久しぶりに出会った太陽はさんさんと照り、水たまりに反射している。
小さな小さな水たまり。
風が吹き青い水面が揺らめけば、光も揺れる。

あいも変わらず無愛想な彼を見つけて、ティナは軽い足取りで近づいていく。

「あのね――じゃない、あのですね、ちょっと聞いてくださいよ!…ってどこ行くんですか!?」

リオンが年齢不詳だと聞き、とりあえず敬語で呼ぶことにしているらしい。
……はっきりいって、かゆい。

ティナは明らかに異質な存在。
常に無駄にテンションは高いし、開けっ広げで分け隔てない。
冷たくしても寄って来て、なんなんだろうかこの娘は。

とりあえず、会ったら……逃げる。
だが逃げきれない。(ティナの方が足が速いからとかいうオチなんですね)

紫の、やや長めの髪を掴まれるとアウトだ。
振り払うことも出来なくはないが、地の果てまででも追ってきそう。

「全くもう!せっかく良いお話を持ってきたのに、いつもいつも逃げないでくださいよ」
「お前に構ってる時間などない」
「えー、ちょっとぐらい構ってくれても良いじゃないですか。女神様のことなんですよ?」

ぴくり、と動きが止まる。

よしよし、と満足顔をしたのは川沿いに住んでる方の牧場主。
純粋無垢だけが彼女のウリではない。

「もう女神様って本当に素敵ですよね!あたし憧れちゃいます」

手を組んでうっとりとする姿は、テレビアニメの魔法使いに成り切る子供と大差ない。
鼻で笑ってやる。

「それで、アイツに関する話というのはなんだ」

蔑まれてショックを受けて、ティナはぷんぷんと怒り顔。
その上自身の話は無視されてしまった。

「…もう、教えてあげません!自分で勝手に聞きにいってください!!」

嵐のようにやって来て、嵐のように去って行く。
ティナはそんな娘だった。
赤いバンダナをなびかせつつ、走ってどこかへ行ってしまった。



■■■



泉は光に満ちていた。

動物は嘶き。
植物は輝き。
命が生きている。
音にあふれ鮮やかだ。

これが全てあの娘の成したことだと思うと腹立たしい気もするが、その事実はストンと納まった。
不思議と違和感がなく、心地の良い想いで胸が埋まる。
ここにいればいるほど、ふわふわとその大きさは増すばかり。

「リオン…わざわざ来てくれたの。ティナさんから聞いたのね」

少し癪に障らないものの、小さく頷く。
にこりと微笑んだ。

「あなたには、本当に感謝しています。お礼の品を作ったのだけど、着てもらえるかしら?」

女神がひらりと舞うと、そこには一つのポンチョが。
黄、緑、藍。
涼しげな色合いに綺麗なグラデージョン。
夏用、といったところか。

「私のことを、忘れないでいてくれてありがとう」

穏やかに、たおやかに。
微笑む姿は先ほどの誰かさんとは似ても似つかない。
けれど、重なる部分もあって。

その眼差しが。
それは、想う心の強さよ。

――ティナに対して少しだけ素直になれたのは、コイツに似ているから?

「…リオン、どうかしたのですか?」

珍しく、表情豊かに物思いに耽っていた。

女神の言葉で我に返る。
自分は今、なんだかとても――。

「いや、なんでもない」

きっとそうだ。
そう思わないではやってられない。





泉からの帰り道、リオンは川原に座ってくつろいでいる人を発見した。
男と女の二人組で、片方は茶色のツインテール。

「――それでね、リオンさんったら――」

他人に関心はない。
けれど自分のことが話されているとさすがに気になるもので、しかも先ほどのことのようだ。

熱心に、一通り説明を終え満足気なティナに、男の方が暗い顔で話しかけた。

「ティナ……お前、本当は…」

立ち聞きなんて趣味はない。
けれど体が動かない。

一瞬ためらい、再び男が口を開く。

「リオンのこと……好きなんじゃないのか」

大きく心臓が跳ねた自覚があり、気分が悪い。

ティナはみるみるうちに青くなっていき、そしてだんだんと赤くなってきた。
乾いた音が辺りに響く。
一方の頬だけが赤くなった男を、泣きそうな顔で見つめている。

リオンには決して見せない表情で、ただ見つめるだけ。

彼の知っているティナは、よく喋りよく笑う小娘。
声に出せない言葉など知らないような、娘。

男が一言謝ると、にこりと笑った。

それは女神の微笑みとよく似ていた。

山の上から土を駆ける音がする。
年上であるはずの二人組を後ろにつけて、元気よく叫ぶ。

「お母さーん!」

既に日は傾いていた。
子供達の帰宅の時間だ。

ティナに飛びつく幼子は、夕日を浴びて橙色に染まっている。
リオンは踵を返した。



夕日を背景に大きな虹がかかっていた。
根元に宝物が埋まってると、話す親子の声はしだいに遠ざかる。

女神からもらったポンチョが、手の中にある。
綺麗なグラデーション。
まるで虹のよう。


――あたし、リオンさんが好きです。


それは遠い過去のこと。
ばっさりと切り捨てた昔の自分。


「お母さんの宝物ってなあに?」

子供の声が微かに聞こえる。
…その答えは聞きたくない。
リオンはさらに足を速める。


――本当に大切なものって、失くしてから気がついたりするんですよ。


この胸の痛みすら、大切だと思える日が来れば良い。





リオン祭りに参加してきました。
どうしてもリオンと結婚したいのですが、無理ですか。



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