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村中が大騒ぎだ。 釣り大会まであと三日。 広場ではステージなどが準備され、出店用のテントも持ち運ばれてきた。 調理系の各店は下ごしらえに取りかかり、物品販売系の人達は急ピッチで製作を進めている。 その全体の指導者はやはり村長であるが、その村長に助言をし、実質的に動かしているのはティートだった。 大勢で何かを作り上げること。 一つの目標に向かってひた走ること。 色々と苦しいことや厄介なことが出てきても、乗り越えて行くこと。 共に歩むこと。 ティートはこの雰囲気が好きだった。 とても好きだ。 だから―― 「リオン、お前も参加しない?」 広場から走ってすぐ、リオン牧場にちょくちょくお邪魔している。 「断る」 間髪入れず拒絶されても、決して誘うことをやめない。 「お前さー、ずっとそうやって生きていくつもり?駄目駄目。ちゃんと交流しろよな」 「…うるさい!」 いつも通り頑なに拒むリオン。 溜め息を一つ。 「そんなに人間が嫌いか」 「当り前だ!」 「…じゃあ訊くけど、」 「人間とお前、違いは何?」 ゾクリ。 リオンは思わず鳥肌をたてる。 ティートの声色に、その低さに。 荒い息遣い。 見事なまでに綺麗な抑揚の効いた、まるで“演じられているような”、普段の話し方はどこにも見当たらない。 制御されていた感情が、一気に溢れ出している。 「お前が人間でない、ってことは分かる。体の構造とかな」 …正直、恐ろしい。 人間を恐ろしいと思ったのは、生まれてこの方始めてだ。 そして、恐ろしいと感じつつも、妙な思いもあった。 今、目の前の人間は間違いなく本音を話している。 かつてこの人間から本音を聞き出せた人間がどれだけいただろう。 「でもさ、それ以外にどこが違うのか説明できるのかよ。感情を持ち、言葉や道具を操れ、思考回路が発達した『生命』ということに変わりはないだろ」 一方ティートは至極機嫌が悪い。 自分自身の心を己で制御出来ないのは悔しいことだ。 しかも、よりにもよって一番吐露したくなかった相手に。 言葉にされた内容はともかく、溢れた感情が腹立たしい。 「人は生まれながらにして『人間』だけれど、育っていくうちに『人格』が形成されるんだ。女神様が石になったのはその『人格』のせい。『人間』だからじゃない」 ティートは一歩踏み出す。 リオンは後ずさる。 恐がっているのは明らかだ。 怒ると思っていたのに。 予想が外れたことに対してなのか他のことなのか、もはやティート自身にすら判断できない。 知らず知らずのうち、乱暴に相手を掴んでいた。 「そしてその人格は――」 これ以上は駄目だ。 そう、考えられる部分は残っていたのに。 「リオン!お前の感情や思考、言動とどこが違うっていうんだ!?」 ぽとりと落ちたものは、悲しみじゃない。 もちろん、大嫌いな人間と同じに扱われて、ショックを受けなかったわけではないけれど。 言葉を失うほどに詰め寄られた彼の、精一杯の自己主張。 温厚で飄々としていて、人をおちょくることはあれど傷つけることは絶対にしない。 そんなティートをこれほどまでに怒らせた。 『ごめんなさい』の、なみだ。 目の前で、ぽろぽろと泣くリオンを見て、ティートは正気に戻った。 「…悪い、言い過ぎた。じゃなくて、言い方が悪かったよ。ごめんな」 そっと涙を拭ってやると、リオンの動きが一瞬止まる。 ポカンとした表情。 そして一気に頬が染まり、慌てて逃げようとするが、腕を掴まれててそれも叶わない。 ……もしかして、泣いてることに気付いてなかった、とか。 「…離せ!!」 やっとのことで搾り出したのがそのセリフ。 俺……これは、完全にリオンに嫌われたかもな。 「いや、だって離したら逃げるだろ」 だが、嫌われたままで済ますつもりはさらさらない。 ――感情を吐露したくなかったのは、 「お前って本当、面白いよな」 ふっと笑みが零れる。 先ほどまであんなに荒んでいたのが嘘のようだ。 「良いよな、そういうとこ。好き」 ――ただ、好きだったからなんだろう。 視界が開けた。 ティートは、今改めてリオンを見る。 気の強そうな眉、澄んだ空のような瞳。 リオンらしい、と思う。 そして、掴んでみると意外なほどに華奢な体に、白い肌。 鼻をくすぐるのは牧場の匂い。 たまらなくて、抱き締めた。 腕の中の人は完全に硬直している。 「まあ話しを聞けって。俺が言いたかったのは、つまりさ、お前が嫌ってる人間は、お前とそう違ったもんじゃない。この村の人は、とても良い人達ばかりだよ。お前も含めてな。そして女神様が石になったのは……リオン、お前みたいな人が増えてきたから」 長々と話しているうち、硬直していた体は動き出す。 必死に逃れようと何やら咆えたり殴ったりしているが、ティートは気にする風もなく続ける。 「“Love your neighbor as yourself.”ってやつだよ」 ――あなたが、あなた自身を愛するように、あなたの隣人のことを愛しなさい。 「…はあ?」 リオンにはどこの国の言葉かすら分からない。 けれどティートは間違いを指摘されたかと勘違いしたようで。 「ああ、お前の場合はyourself(あなた自身)じゃなくて、goddess(女神)… selves?英語は分かんねーな……まあそこはどうでもいいだろ」 満足したのか、身体を離す。 逃げられないよう腕はゆるく掴んだままだけれど。 ティートはふっと笑った。 下を向いてしまったリオン、耳まで赤くなっているのは、泣いたせいではなさそうだ。 「皆で仲良く暮らそう?愛する心を取り戻すには、まずは誰かと交流することから始めないと!」 空いている方の手で、優しく肩を叩いた。 「お前が音色を集めるんだ。信じる心、感謝する心。俺じゃない、お前が集めるんだ。お前が、お前自身の手で女神様を復活させたければ――人に交わり、人を学び、人と生きること――それしか方法はないんだよ」 音色が集まるにつれ賑やかになる泉。 音色入手以外の方法で女神様がもとに戻るとは、もはや考えてはいないだろう。 「今更交わるのは恥ずかしいかもしれない。勇気もいると思う。でも、行こう?俺も行くからさ」 ようやく掴んでいた腕を離す。 これから先は、リオンの意志しだいだ。 英語は分かんねえなあ…!!(ごめんなさい) |
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