project:F 第四話



マスターの作ったケーキを頬張りながら、シンとケティは相変わらず。

「――そんなわけでさ、俺も手伝うことになったわけ」
「うわー、凄いじゃない!」

自分のことのように喜んでくれる姿は、可愛い。

ケティは嘘をつかない。
それゆえ人を傷つけることもあるけれど、悪いと思えば素直に謝れる。
とても良い子だ。

「でもさ、見合いパーティ−なんてやったことも見たこともないんだよな〜。ケティなんか知らない?」
「うーん……」

頭の中を掻き回す。
難しいことは苦手なケティでも、恋する相手の相談事には積極的。

「公募とかは都会の業者さんに頼めば良いとしても、やっぱりパーティーなんだからこっちにも盛りあがれるようなことが必要よね」
「盛りあがれること、か。歌って踊って騒いで飲んで食って――」
「それよ!」

目を輝かせながら、ケティは立ち上がった。

「やっぱり美味しい料理が必要よね!よーし、私のスペシャルなケーキで会場のお客さんを魅了しちゃうわ☆」

ちょ、ちょっと待ってくださいケティさん。あなたにお話があります…!

シンが口を挟む間もなく、ケティはケーキの構想を練り出している。
命がけで見合いをしたい人が、この世にいったい何人いることか。
宇宙はとても広くて、地球はその中のほんの小さな存在。総人口の単位は“億”なのだ。

夜空に輝く、数え切れない程の星を思い出しつつ、シンはケティの説得に時間を費やす羽目になってしまった。

――そういえば、人が死んだら星になるっていうよな……。

バンダナの星マークに、彼はどんな思いを馳せているのだろう。


■■■


ドアの前に立ち尽くすこと15分、レイフはようやく扉を開けた。
中に入ればそこには、聖母のような微笑み。

「あら。いらっしゃい、釣り人さん。今日はどのような本をお探しですの?」
「…今日は、その……」

口篭もるレイフに、マリアは思い出したように手を叩いた。

「この間はすみませんでした。あの後釣りに関する本も少しですが取り寄せたんですよ」

カウンターから出て、奥の方へ歩いて行った。
慌ててついていく。

「『上級者への釣り読本』、『幻のヌシを釣れ!』、『世界の魚伝説〜中世編〜』……どうでしょうか?」

にこやかに、けれど若干不安そうに、レイフの返事を待っている。

この村で釣りをするのは実質三名程度で、そのうちこのレベルの本を求めているのは一人だけ。
片方は釣りの腕がここまで達していないし、片方は釣り以外のことで忙しく本を読む暇がない。

自分のためにわざわざ取り寄せてくれた、その心意気が嬉しいではないか。

「…ありがとう。その、今日は魚に関する本を全て借りたいんだが……釣り大会の資料にするらしいんだ」
「ああ、それですか!父から聞いています。私も出来る限りお手伝い致しますわ」

楽しそうに、魚関連の本を取り出し始めた。

「昔のような、活気溢れる村に戻ってくれると良いのですけれど」

レイフは口数が多い方ではないが、決して少ないわけではない。
短い相槌で終わってしまうのは、『美人は苦手だ』からだそうで。

「釣り人さんはここに定住なさる予定はないのですか?」

愛想のない話し相手を気にする風もなく、マリアは話し続ける。
大人しいのと喋らないのとは全く別物だ。

「オラは、釣りが生き甲斐だから……」

望む返答が出来ない自分が少し悔しい。
まともに直視は出来ないが、ちらりと横顔を盗み見る。

笑っていた。

「それだけ一生懸命になれることがあるのは素晴らしいですわ」

それが最後の一冊だったらしく、分厚い本を数冊まとめて抱えた。

「では、持って行きましょう。ティートさんの牧場でよろしいでしょうか?」
「いや、オラが持つから――」
「一人じゃ重くて持てませんよ。お手伝いさせてくださいな」

そんな言い方をされては、断り難い。
素晴らしいのはマリアさんの方だ。
口が裂けても、言えそうにないけれど。

逃げ出したい気持ちを抑えて、レイフは残りの本を抱えあげた。



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レイフとマリアは難攻不落も良いところだと思います。
ケティとシンは比較的想像範囲内なのですが。



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