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目の前には三人の青年がいる。 一人は青い帽子、名をティート。 新米ではあるが経営手腕はたいしたもの。 一人は釣り竿、名をレイフ。 浦島太郎伝説が頭をよぎる。 一人はバンダナ、名をシン。 その釣竿はお飾りではないよね? 「そんなわけなんだが…どうだね」 緊張した面持ちでテオドールは尋ねる。 彼が企画・提案したのは、『花の芽村で一年中楽しめるレジャー』。 すなわち『釣り』だ。 川、湖、池、海……釣り好きを満足させるだけの要素は備わっている。 自然はたくさんある、カフェや居酒屋もある、父親や息子が釣りに勤しむ間に他の家族が楽しむような場所だってある。 レイフ曰く、ヌシレベルの魚だって色々といるようだ。 定期的に釣り大会を開き観光客を集め、花の芽村の名を広められないだろうか。 ただ、この運営をテオドール一人でやるのはちときつい。 彼はやはり年を重ねているわけだし、若者の心を掴むにはやはり若者に任せた方がより良い結果となるだろう。 そのうえ釣りに疎かった。 良いポイントはおろか餌をつけることすらままならない。 そこで集めたのがこの三人だ。 ティートやレイフの釣りの腕は周知の事実だし、シンは腕はアレでも盛り上げ役としておおいに活躍してくれるだろう。 釣り自体は好きなわけであるし。 釣りが嫌いな人に釣りの楽しさを教えることは出来ないと思う。 「でもさ、村長」 ティートが口を開く。 レイフがリーダー気質でないことは明白であり、シンは聞いてすぐ「やる」と宣言しかけたところで蹴飛ばされていた。 「釣り大会で人が集まったとしても、イコールで人口増加にはならないですよね」 ちらりとレイフを盗み見る。 見られた彼は、『オラは釣りが生きがいだ』とでも言いたげに肩をすくめた。 「まず、住むところがない。土地も家を建てるのも他に比べたら安いですけど、それでも『釣りが楽しいから引っ越すぞ!』なんてのはまずいませんよ」 「それは……アレだよ。ウェンさんの宿屋に住まわせてもらえば良いじゃないか」 「部屋数が足りません。それに宿屋に半永久的に住むよりは家を建てた方が安いですよ。長くても一年そこらで出て行くのがオチです。下手したら人口はさらに減少しますよ」 「と、いうのは?」 「一年もあれば愛を育むのに十分です。都会のボンボンが娯楽がてらこの村に来て、嫁さん掻っ攫って出て行くかもしれないじゃないですか。子供を産める女性の割合減少は痛手ですよ、村長」 詰め寄られながらも、テオドールは内心喜んでいた。 自分の人選は正しかった。 頭が回るのが速い人間も必要だろう。 「そうだね……。ああ、私に一つ考えがあるんだが、聞いてくれるかい?」 小さく首を縦に振ったティートを見、少しビクつきながらも切り出す。 「釣り大会の時、一緒にお見合いパーティーも開催しようと思うんだ」 「はあ!?」 「ちょっ、おいそれはなんだ!」 今まで黙っていた二人が叫びだした。 予想通りの反応だ、ティートは沈黙を保っている。 「何故だか今この村には適齢期前後の男女が多いだろう?性格はもちろんのこと、容姿だってみな悪くない。『結婚後花の芽村に住める人』を対象に募集したらそれなりの人数を呼び込めると思うんだが」 性格や容姿を褒めることで多少の反論を抑えよう作戦……成功したか。 もし嫌なら、見合いパーティーを欠席するなり異性に対して無愛想にしてれば良いだけの話なのだから。 「もし出来れば広告にはリオン君を使いたいと思ってるんだよ。彼は中性的だろう?」 中性的だろう?――両方の性別に受けるだろう? インパクトもあるし、彼に興味を持って集まってくる人が増えるだろう? 「……人のことをそんな、道具みたいに思ってたんですか。村長」 驚くべきは、彼の声の低さ。 背筋が震えた。 「…い、いや、もし、仮に、例えば、ifの世界だよ。お、落ち着いてくれたまえ……」 ティートが怒った様を、今まで見たことがあっただろうか。 「あーあ。俺ガッカリですよ、村長は良い人だと思ってたのに。見た目どおり全く計画性がないかと思えば変なところだけしっかりしてて人のこと馬鹿にしてるし結局なんのためにこの村を活性化させたいのか分かりゃしない」 一気にまくしたてられて、口を挟む隙もありゃしない。 「もし仮に例えばifの話ですけど、人口が増えたらこの村はどうなりますか。賑やかにはなるでしょうけど、人口なんてたくさんいればいるほどそれだけ揉め事の原因が増えるってことなんですよ、分かってるんですか」 鼻でフンと笑われた(気がした)。 「大体これだけの人数が結婚したとして、さっきも言いましたけど住むところはどうするんですか。ケティやルーンなんてもの凄く肩身の狭い思いをすることになりますよ。ウェンさんの店に住むのには限界がありますから、いっそ新しいアパートみたいなの建てたと想像してみてください。……どうですか、そこは花の芽村ですか?」 無機質なコンクリートの壁、溢れ帰る文明の利器。 ――駄目だ。 「都会の人は便利な暮らしに慣れています、『こんなところでは暮らせません実家に帰らせていただきます』とか置き手紙があったら俺は耐えられませんよ」 テオドールは気がついていた。彼がこんなにも怒る理由。 こういう人が次世代を担ってくれると、花の芽村はより良い村になるだろう。 両手を挙げて、降参の合図。 ティートはその意図に気づいたらしく、話の流れが繋がるようにぴしゃりと絞めた。 「あなたみたいな人にこの企画は任せられません、俺達が全部引き受けます。それで良いですね?」 やはり、自分の人選は正しかった。 にこりと笑えば、笑い返してくれる、そんな人。 唖然としている二人を引き連れ、「色々相談とかには来ますんで」とか言いつつ去って行った。 「なあティート。なんであんなに村長追い詰めたんだよ?しかも最後にはちゃんと引き受けるし」 わけ分からん、という顔をしてるのはシン。 自分が蹴られた意味はあったのだろうか。 数秒シンを見つめ、おもむろに頭にある星を奪った。 「俺、他人をいじるのは好きだけど、いびるのは趣味じゃないんだ」 そーれ行けポチ。 丸めたバンダナを思い切り投げた。
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