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森の方から声がする 人の泣いてる声がする 小鳥舞う中彼女は歌う 先日の台風で壊れてしまった動物小屋。 修理のための資材探しに、ブルーは森へ出かけていた。 初めは空耳かと思ったのだ。 鼓膜を震わせるわずかな何か。 こんなところに?まさか! だが、奥へ奥へと進むうち、だんだんと。 それは紛れもなく人の声だった。 悲しさと苦しさを惜しみなく込めた、音だった。 しかも聞き覚えのあるもの。 誰のものかなんて考えなくても分かる。 ただ一人の愛しい人。 胸を揺らすその人を、間違えるはずはない。 きっと、一人で、誰にも見つからないようこっそりと泣いているのだろう。 邪魔者は退散した方が良い。 そう、考えはするのだけれど。 音の源へと、足は向かうのだ。 速度を速め、時には遅め、とまどうように、けれど止まることなど知らないように。 大きな木の郡を抜けると、小鳥たちが舞っていた。 木々の隙間から零れる光たちを浴びて、彼女は立っていた。 高らかに歌いあげていた。 舞台に立つオペラ歌手のように、堂々たる姿だった。 観客は、ただ一人の招かれざる客。 声に震えは感じられず、頬に涙の跡はない。 けれど確かに泣いていると、ブルーは思ったのだ。 一曲が終わり一息ついたところで、ようやくこちらに気がついた様子。 踊っていた小鳥たちは小枝に止まり、観客を決め込んでいる。 出演は二人、台本のない公演。 「…おい、お前」 「何?」 あまりの声色に息を飲んだ。 苛立ちも悲しみも、何も感じられない、抑制されたもの。 それは紛れもなく――演技だった。 「お前…大丈夫か」 そう言って近づこうとすると、飛び跳ねるように後ずさった。 「来ないで!」 演技は終了したのか。 激情の中にある冷静さよ。 「…見ないで!」 背を向けてしまった。 「…ごめん。私今、とても機嫌が悪いから…来ないで。お願い…お願いよ……」 離れていても、体の震えが見えた。 こんな時、多少の勇気があれば抱擁の一つでもしてやるのだろうけれど、生憎そのようなことが出来る性分ではなかった。 それに、彼女はそれを望んでいないと思うのだ。 自分をきちんと持っていて、人に依存するのを嫌うから。 辛い時に異性に縋るなんてもっての他だろう。 「それなら、歌を聞かせてくれないか」 だからブルーは近寄らない。 距離を保って見守るだけ。 いつか、この視線に気がついて。 苦しい時は人に頼っても良いのだと、彼女が悟るその日までは。 背中を預ける強さを、彼女が手に入れる日までは。 「俺はお前を慰める言葉を持ち合わせていないが……泣いているヤツをほっておくのは気が引ける」 先ほどの歌、一見明るい歌だった。 旋律は平凡にハ長調、歌詞は異国語で分からなかったが。 声色だって、そんな、悲しそうには聞こえなかった。 ブルーは誤魔化されなかったけれど。 彼女は若干の驚きを込めて、ブルーを見つめる。 悲しさを、辛さを、見破られた腹立たしさと嬉しさ。 本当は気がついて欲しかった。 誰にも言えないこのもどかしさ、切なさ。 歌に乗せて、心の中からいなくなってしまえば良い。 そして目の前の青年は、それを分かちあってくれると言う。 ゆっくりお辞儀をして、彼女は歌い始めた。 小鳥たちは再び踊る。 ブルーは静かに耳を傾ける。 とても悲しく切ない響きだった。
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