花がひらいたその後は



がさがさと音がする。
草を踏みしめる音がする。
草とこすれる音がする。
草の生きてる音がする。

平行脈の草はまっすぐと、伸びるの。
たまに肌を切ったりすることもあるけれど、気にしない。
すぐに治るから。

網状脈の草はやんわりと、しっかり伸びるの。
虫がついていることもあるけれど、気にしない。
害はないから。


「メイちゃん!どこー?」


呼ばれてる。
声がする。

大きく手を振ると、にっこり笑ってこっちへ来てくれるの。


「こんなところにいたの」


草むらの中、寝転がってるメイを優しく撫でてくれる。
メイは起き上がって、ぎゅって抱きしめる。
大好きだよって。


「お姉ちゃん、綺麗だね」


黙って頷くお姉ちゃんも、とても綺麗。

空が染まってる。
青と赤のコラボレーション。
夕日の赤と空の青が混ざる場所。
なんて色なんだろう。
なんて場所なんだろう。
きらきらしてて、お星様もきっと喜んでる。


「もう、行こうか?」
「うん!」


今日は花火大会の日。
お姉ちゃんが連れて行ってくれるの、嬉しいな。
海で見るなんて初めて。
いつも二階の窓から、そっと眺めてたの。



■■■



「メイ!お姉ちゃん!こっちこっち!」


遠くでユウとお兄ちゃんが手を振ってて、メイは大きく応える。
色んなパラソルの下で、お兄ちゃんやお姉ちゃんがお喋りしてて、とても楽しそう。


「遅いよー!始まっちゃうかと思った」
「ごめんごめん、間に合ったから許してね?」


ユウの頭を撫でるお姉ちゃんは、優しい顔をしてる。
空にはお月様とお星様しかいなくて暗いのに、暖かくて良い気持ち。

まだ少し時間があるみたいで、メイはユウと波と遊ぶ。
ちゃんと靴と靴下は脱いでるけれど、お洋服を濡らさないように。
押し寄せてくる波を踏んでみたり、逃げてみたり。
砂がさらわれて行くのがなんだか面白い。

夜の海は真っ黒で、ちょっと離れただけで全く底が見えなくなるの。
『危ないから“くるぶし”より深いところに行っちゃ駄目よ』…なんだって。
くるぶしってどこなのかなあ。
ユウに訊いたらお腹の辺りを指していたから、それは多分違うよって、笑った。


「…あ」


笛を吹くようなひゅるひゅるって音。
その後は太鼓かな、ドンって。
光ってなびいて、最後にどこかに消えてっちゃうの。

でもまた、すぐにまた、新しい花が咲いて。


「うわー、メイ!綺麗だね!」
「…うん!」


永遠と続きそうな闇の中に、光の華が乱れる。
散っては咲いて、散っては咲いて、本当の花みたいに。
家の中から見るのとは全然違う。
あれは、きっと――生きてるんじゃないのかな。
暗いところは寂しいから、照らしてあげてるの。
一人で暗いところにいるのは、怖いから。


メイとユウはお姉ちゃんたちのところに戻った。
みんなで並んで見るのは、二人で見るより楽しいの。


「本当に、綺麗だね」


お姉ちゃんがそう呟くと、お兄ちゃんは誰にも聞こえないようにこっそり言った。
メイには聞こえちゃったけど。
クレアの方が綺麗、だって。
なんだか恥ずかしい気分になったのは、メイだけなのかな?

ユウは疲れたみたいで、うとうとしてる。
メイもそろそろ眠いな。
きっと家まで連れてって…くれる…よ…ね……。



「あら、二人とも寝ちゃったわ」


クレアは小さく微笑んだ。
風邪をひかないよう、あらかじめ用意しておいたタオルケットをかける。


「なあ、どうして今日は二人を…?いや、別に嫌ってわけじゃないけど」


男はごもごもと。
やはり本音としては二人きりがベストだったろう。


「頼まれたのよ」
「ムギさんに?エレンさんに?」
「ううん、違う。メイちゃんの、お母さんに」
「えっ…」
「『娘を花火大会に連れて行ってはもらえませんでしょうか?』って」


どういうルートで交流があったのか、とか訊きたいことは色々あったけれど、踏み込んで良いものなのか分からなかった。
優しくメイを撫ぜるクレアを、ただ見つめるぐらいしか出来なかった。

ただ、分かるのは。

メイには母親が必要で、寂しい思いをさせたくなかったんだろう。
母親として、自分は出来ないけれど、どうしてもメイに与えたかったのだろう。

花火が夜空に煌くように。
思いやりと優しさと慈しみ、それからたくさんの愛情の華を。





今年こそは!と参加してきました。
前半行き詰ってどうしようかと思いました;



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