本日、お花見日和。




「ふわ、ふわ」

そっと差し伸べた手に、一つ。
花びらが舞い降りた。

「……『ゆらゆら』、じゃないの?」  

クリフは疑問の声を投げかける。
彼女の発した擬態語は、薄い一枚のそれには相応しくないと思ったのだろう。

クレアは首を横に振り、てのひらを緩く握る。
壊れてしまわないよう、そっと。

そして振り仰いだ、その表情の穏やかなこと。
誰の目からも明らかで、一刹那、クリフの纏う空気が冷える。

「ふわふわ、で良いの。ですよね、カーターさん?」  

カーターは笑う。
音をつけるなら、ふわり。  
満開の桜の下、教会の裏庭。
三人の男女が仲睦まじく。

冬が開けたこの季節。
皆、まだ肌が白く、頬の高潮が見て取れる。
さわさわと吹く風に、花吹雪はたいそう美しく、静かに高まる胸の鼓動。
花びらが意志を持ち、観客の周りを取り囲んでいるようだ。
桜色の頬は風景の一部と化している。

クレアは大きく息を吸う。
大地の息吹が隆盛なこの時期は、大気の中にまで生命があふれていて、気持ちが良い。
絶えず聞こえてくる、ささやかな鳥の声は優しさに等しい。

「私、この季節が一番好きです。特に今日みたいな、天気の良い日の桜」

同意を求めているような、新たな素敵な意見を求めているような、好奇心に満ち満ちた瞳。
視線を受けたクリフは、胸の奥から取り出すように、噛み締めながら。

「昼の桜も良いけど、僕は夜桜が好きだな。幻想的で、引き込まれそうで」
「……クリフは相変わらず思考が受身ねえ」

言って笑う。
その表情に翳(かげ)りはなく、さらさらしていて春らしい。
牧場に実りをもたらす、川の流れを思い出させる。

クレアが視線を送ったもう一人は、少し考える風に首を傾いだ。

「そうですね……私は、雨に濡れた桜が好きですね」

しっとりとした木の茶色は常より濃く、触ると柔らかいように感じられる。
散らないよう、花びらが木にしがみつく様もまた風流そのもの。

そんな考えを読み取って、若い二人は互いを見つめあい、和やかな雰囲気を創り出す。

「ねっ、クリフ。せっかくだから遊ぼうよ」

クレアがカバンから取り出したのは犬用のフリスビー。
『ただでさえ体力仕事をしてるのだから、休みの日ぐらいゆっくり休めば良いのに』
と、クリフは思ったりしたけれど、

「分かった」

短く了承の返答を返し、立ち上がる。
当人から誘ってきてるのだから大丈夫だろう。

傘のように広がる大木を脱け出して、太陽に打たれはしゃぐ。
カーターの場所からは間隔を取った二人がよく見え、ぼんやりと眺めていた。

クレアが投げたフリスビーは、さすが、まっすぐ飛んでぴたりとクリフの元へ。
対するクリフはへなへなで、地面と垂直になったりして明後日の方へ。
慌てて追いかけるクレアと、必死に謝るクリフと、両方を見つめた後。
そっと、口の中で呟いた言葉は、誰の耳にも届かず、消える。

「……美しい」

頑丈な幹に背を預け、目を閉じる。
せめて夢の中で叶いますように。





別に恋愛要素入れる必要はないのに、あえて入れたら失敗したという……。
(でも雰囲気はわりと気に入ってます)



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